この住宅は、周囲を電子機器製造工場の駐車場に囲われている。24時間3交代制のその工場の駐車場は出入りが自由で、殺伐とした雰囲気がある。そんな環境の中に柔らかさをもって生活する環境をつくり出すことが主題のひとつとなった。
こうした周囲の環境に対して、それぞれの状況に応じた様々なかたちの複数の外部空間を内在化させ、緩衝帯として作用させる。それらの内在化された外部空間は、各スペースを緩やかに分節することでほどよい距離感を生み出し、そして有機的に連続しバランスをとらせる。その空間が外部と接する面は、強く閉じるのではなく、生活の空間と周囲の環境を浸透膜のような、互いを表出させる皮膜となればよいと思った。また、内在化された外部空間は内部空間に従属するのではなく、互いが互いを形成し合うような関係を模索した。
内部空間は、おのおのの空間がほどよい自立性を保ちながらも、他の空間と緩やかに連続させたいと思った。内部空間と内在化された外部空間はそれぞれに磁場をつくる。その磁場は広がり、重なり、相互に干渉しあい、その密度を変えながら様相の濃淡をつくり出す。日々の所作と、心的環境に応じた場とその居方を、住まい手がさまざまに選択することを受け入れるような空間にしたいと思った。