« 謹賀新年2018 | Main | 建築の原点 安藤忠雄「住吉の長屋」  »

2018.02.25

恩師 陣内秀信教授 退官

2月24日、恩師法政大学陣内秀信教授の退官に際し、
最終講義が行われました。
 
Image11
Image12
 
近代の思想が行き詰まりを見せる最中、当時は見向きもされなかった
水の都ヴェネツィアに魅了され留学。
東京へ戻り、これまた見向きもされなかった東京の魅力を発掘。
さらに、中国・地中海のイスラーム都市・イタリア・スペインなど、
多岐にわたるフィールドワークを展開し都市と建築の魅力を発信、
その軌跡を講義されました。

講義の前に、ウエルカム・レセプションとして、調査の展示をし、
ワインとコーヒーでもてなす陣内研ならではのもてなしも、
歩けないほどの人の賑わい。
講義は、定員870人のホールに1100人が押し掛け、立ち見!
 
Image10_2
Image2
Image1
 
陣内先生の授業は、ビジュアルを重視し、毎回図面の資料を配布し、
多くのスライドを用い、そして、「ラビリンス」「祝祭空間」「ヴァナキュラー」と、
キャッチ―な言葉を用い、都市の魅力を臨場感を交えて話すスタイル!
書籍も、数えきれないほど出していますが、
とにかく伝わりやすい言葉を用います。
「ブラタモリ」にも何度も出演し、都市の魅力を平易に伝えることを、
ことさらに意識しているところがありました。
 
Image3
Image4
 
1986年、バブル真っ只中に入学したぼくは、
当時の浮かれた建築に嫌悪感を強く抱いていました。
流行や潮流に左右されない、洋の東西、そして時代を超えた価値を持つ建築とは
どのようなものであるのか、関心はそれに向かっていました。

しかし、具体的に何をやればよいのか皆目見当がつかず、
とにかく、最も活気があって、建築家志望の先輩も多い、陣内研究室に。

学部のゼミ生は12名、大学院生と研究生が10数名という大所帯。
当時、先生は、自らの原点であるヴェネツィアが、地中海の諸都市との交流が深く、
建築的にも大きな影響を受けていることから、
地中海のイスラームの都市と建築の研究をしていました。

4年生の時にはトルコ、大学院の1年時にはモロッコのフェズとマラケシュ。
報告を聞き、写真を観ると、それは魅惑的な都市と建築でした。
調査での図面の清書などをお手伝いし、分析の議論も聞いていました。
 
Image9
Image8
Image5
 
翌年、陣内先生は、1年間ヴェネツィア建築大学に。
夏に、シリアのダマスクスの調査に参加しました。
赤坂の大使館で、推薦状を添えたビザの申請。
満を持しての初めての海外旅行。
最初の地は、ギリシアのアテネ。
トルコ・イスタンブールを経て、シリア・ダマスクスで合流。
紀元前2千年前からの都市であるダマスクス。
密集する旧市街区に、イスラム教徒だけでなく、キリスト教徒も共存。
ギリシアの神殿を改修したイマイヤド・モスクと隣接するスーク。
少し路地を入ると、道路の両側には壁。
扉を開けて住宅に入ると緑豊かな中庭!
情報がなく、治安が心配でしたが、人々はとても親切に我々を受入れてくれました。
しかし、食事が合わず苦労しました。
調査の折り返し時に、ローマ時代の遺構パルミラへ行く際、
体調がすぐれず、ホテルで寝ることも考えましたが、
調査に同行していた先生の奥さんに「人生観が変わるわよ!」と背中を押され行くことに。
荒涼とした砂漠。
月の明かりの中を歩く時、日本人のアニミズムとは異なる
一神教の真理にすがる気持ちが理解できました。
 
029web
032web
002web
003web
 
調査は、事前の仮説によるのではなく、現場での判断の連続!
興奮して突き進む陣内先生に必死でついて行き実測!
夕食を取りながら、調査結果を持ち寄り翌日の方向性の確認。
ダマスクスは、本当にお酒がなく、先生の泊まる唯一の外資系のホテルの、
一杯800円のビールをカラカラの喉で味わう。

調査の打上げは、先生のホテルの中華料理でした。
とても美味しく食べ進める中、「猿の脳ミソ」を頼むことに。
ゲテモノは全く得意ではありませんが、折角なので一口。
上品な絹ごし豆腐のようであり、とても美味でした。

その後、後輩とエジプトに渡り、イスラミックカイロの
本当に素晴らしい邸宅に驚愕、ギザのピラミッドに感嘆、
ルクソールまで足を延ばしカルナック神殿を観た後、
ヴェネツイアの先生宅で3日間泊めていただきミーティング。
一日は水上タクシーを借りて、ヴェネツィアの運河を案内してくれました!
 
004web
005web
 
陣内先生は、とにかく好奇心が旺盛!
自らの好奇心が反応したところをとにかく徹底的に調査する。
おして、その魅力を興奮さながらに講義する。
東京でのまち歩きは、陣内先生が授業を持つ日本女子大学の学生と。
必ずぼくたちに、「ちゃんと声かけろよ!」と。(笑)
漁船で海や川から東京のまちを巡り、屋形船での宴会も。

そこにある、魅力的な都市空間と建築の成り立ちを解明することは、
設計の手法を読み解くこと。
それ以上に、身体感覚として、多様な空間を体験できたことは大きな財産です。

ある時、建築論の倉田ゼミとサッカー対決をすることになりました。
普段から良く歩くせいか、足腰の強靭な陣内先生は、走り回り大活躍!

ぼくの結婚式にも奥さんと共に出席していただきました。
その数日後、新婚旅行に行く際、東京で陣内研究室として結婚パーティーを
開催していただきました。
 
Image13
 
最終講義の後、ゼミの卒業生250名でのパーティー。
年齢順に、8つのテーブルに分かれていましたが、何と2番目のテーブル!!!
陣内研究室は、学部の学生・大学院生・研究生を含め30名弱の大所帯。
多岐にわたる関心を持った学生がおり、様々のことについて議論しました。
お世話になった先輩たち、卒業後もことあるごとに連絡を取り合う後輩たち。
 
Image7
Image6
 
学生時代、具体的な設計手法を学んだわけではありませんが、
建築を設計するに当たっての、根本的な部分、
身体で例えるなら、競技の技術を学ぶだけでなく、
パフォーマンスの基礎となる、基礎体力や体幹、俊敏性をしっかり鍛えられたのです。

ぼくにとって、とても貴重な時間であったことを改めて確認しました。

翌日、自らが取り仕切るシンポジウムがあるにもかかわらず、
3次会までお付き合いいただいた陣内先生は、とても元気でパワフル!
今年の6月には、法政大学香川県校友会で、講師としてお招きします。

陣内先生、長い間ご苦労さまでした。
これからも、好奇心に正直に人生を堪能してください!
ありがとうございました。

|

« 謹賀新年2018 | Main | 建築の原点 安藤忠雄「住吉の長屋」  »

Comments

The comments to this entry are closed.