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高校からの友人の住宅が完成しました。
建築家の世界では、様々な謂わば都市伝説のような言い伝えがあります。
その中の一つに、このような言葉があります。
「親兄弟親戚と友人の仕事はするな」
ぼくに仕事の依頼をされる方は、ぼくの設計の考え方・方向性に共感して、
仕事を依頼していただく方がほとんどです。
しかし、「親兄弟親戚と友人」は、建築に対する考え方よりも、
その人間関係から、ある意味「仕方なく」依頼してくるので、
考え方を共有できない場合、人間関係が崩れる可能性があるので気をつけろ!
という事なのだと思います。(笑)
今回のクライアントは、高松一高の3年生の時に同じクラスになり、
それ以来の友人です。
部活を引退した後、図書館へ勉強しに行くのも毎日一緒、
大学も東京と神奈川でしたから、お互いのアパートに行ったり、新宿で飲んだり、
お互いの仲間と野球の試合をしたりした友人です。
高松の繁華街に家があったせいで、学生時代の長期休暇中、飲みに出かけると、
多くの友人と彼の家で雑魚寝をしたものです。
彼は、幼い頃から獣医になるのが夢で、獣医師として働いていましたが、
数年前に、彼の祖父の代からの家業を継いでいます。
繁華街の住宅は、商店街に面した店舗の上部にあります。
会うたびに、その家をどうするのか?という話題になりますが、
昔のことなので、隣の方と共同で立てている関係上、色々と複雑なことも。
その他様々なタイミングが重なり、土地を購入し、住宅を建てることとなりました。
まずは、土地の購入から相談に乗りました。
子供たちの学校の問題から希望のエリアと予算を伺い、
数十の候補を精査し、何度も一緒に現地を訪れるも、
土地探しは、縁のもので、中々「これだ!」という物件に巡り合いませんでした。
そんな時に、「新たに売りに出された物件がある」との連絡があり、
広さ・環境・価格など、条件にピッタリの土地で、即決を勧め、
そして、この敷地での計画が始まりました。
由緒ある高松讃岐藩の氏神様である石清尾(いわせお)八幡宮への
参道である八幡通りに面した敷地。
両サイドは、かつての通りの趣を残す、戦後の伝統的木造建築の家屋。
南側の道路は、車がすれ違えない生活道。
まずは、南北に長い敷地に対して、以下の考え方は、計画をスタートする時点で共有していました。
○外に閉じて、中庭に開く。
○北側の八幡通りにガレージと玄関のアプローチ。
○1階 中庭の南側に北向きのリビング。
○1階南側道路からお母さんの出入り口。
○1階に水回り。
○2階に寝室。
南側に開かないリビングは、落ち着いたとても良い感じにすることが可能ですが、
少し「暗い」と思われる可能性もあるので、そのあたりの説明は丁寧にしました。
当初、「リビングを中庭に開いて吹抜けに」という要望でしたが、
2階リビング案も含めて検討を重ねるうちに、最終プランに落ち着きました。
そして、リビング部分の床を少し下げました。
リビングの床を下げると、その部分だけ天井が高くなり、床にくぼみができることで、
その部分だけ、ゆるく囲われた快適性が生じます。
リビング上部の2階の部分を南側にセットバックさせることにより、
リビング北側の中庭に光が届き、開放感を持たせました。
プランは、敷地の制約が多い分、各室の関係はすんなり決まって行きました。
クライアントである友人も、奥さんも建築・インテリアに関心が強く、
自分たちの住宅建設に向けて、多くの建築を雑誌やインターネットで
勉強していましたので、各部屋の窓の開閉方式に始まり、
手すりの形状、収納スペースのレイアウト、使用材料からその細部にいたるまで、
具体的な事例を基に、こと細かな要望が出されました。
ぼくは、基本的にクライアントの要望はすべて適えたいと思っているので、
とにかくすべての要望をまずは伺った上で、そのそれぞれの要望を、
建築トータルでバランスよく調和がとれるという点から、
「そういう方法も理解できるけれど、今回の場合は、○○との関係から、
ここはこう考えた方がいい」と、思い切ってあきらめるよう助言することもあり、
そうした場合、最初は、戸惑いや、さらに言えば
すんなりうなずかないぼくに不信感もあったようですが(笑)、
彼らが、ぼくの言葉を基に自ら検証するうちに、納得してもらえることがほとんどでした。
そうなってくると、あれこれ細かなところまで自分で考えたいクライアントも、
徐々に「林がそこまで考えているのなら、そうしよう!」と、
大きく信頼してくれるようになりました。(笑)
「友人」という関係から、「クライアントと建築家」という信頼関係が生じたのです。
あれこれ考えるのが好きなクライアント夫妻から、
これまでに取り組んでいないリクエストがいくつかありました。
まずは、ガラス・ブロックです。
ガラス・ブロックに関心を持たれるクライアントは多いのですが、
予算の都合で選択肢から外れることがほとんどです。(笑)
建築の勉強を始めたころ、ピエール・シャローの「ガラスの家」の
ガラス・ブロックの淡い光の空間に魅せられ、興味のある素材でした。
ただし、ガラス・ブロックは、そのサイズと種類を的確に選択している建築が
そう多くないのも事実です。
ここでは、ガレージとホワイエの境壁に使い、リビングから中庭越しに見える
背景として使用しました。
そして、ガラス・ブロックのサイズと目地から天井高さ、床材の割付、
開口寸法などがオートマチックに決まりました。
ガラス・ブロックは、ガレージの内部を透過せずに、
中空の内部で、自ら取り込んだ光をやわらかく放出します。
アプローチからホワイエと続くスペースの天井を何か工夫してほしいとのことで、
八幡通りに残る、この場所の空気感を生んでいる家屋の、
格子のスケールのルーバーで、天井を構成しました。
また、奥さんは家具や家電にも関心が強くダイニング・テーブルと椅子、
その上部のペンダントの照明器具は、消費税の問題もあり、建設前に購入しました。
建築のスケール感に、家具を合わせるのは簡単ではありませんが、
今回は、先に家具が決まって、それに合わせてリビング・ダイニング・キッチンの
細かな寸法を決めるという作業になりました。
住宅の中で、最も使用頻度の高いものは冷蔵庫です。
生活導線、家事導線のポイントになりますが、どんな冷蔵庫も
生活感が出過ぎてしまうのが難点で、冷蔵庫を見えにくく、
かつ、使い勝手の良い位置に配置するのに腐心します。
今回は、ワイン・セラーを内蔵した冷蔵庫をあえて、正面から見せています。
シンクと作業台の仕上げをステンレスとし、レンジフードとともに、
家具のウォールナットとトータルでバランスさせています。
そして、中庭の樹木です。
計画の中で、樹木についてのやりとりは必ずあります。
多くのクライアントは「水をやらなくて、葉が落ちない、大きくならない」
樹木を望まれますが、そんな樹木はありません。(笑)
今回、住宅全体をゆるやかに結ぶ「中庭に、樹木が欲しい」と。
加えて、アプローチからのアイストップとして、リビングが見えすぎないような装置として、
樹木を植えることを決めました。
造園屋さんの畑に、クライアント夫妻と樹を選びに行きましたが、
広大な畑の中では、スケール感をつかむのが難しいのですが、
壁際に植えるため半円形の樹形で、2階の手すりを少し超えた高さのものを選びました。
現場に植込みの日、会議で少し遅れて到着すると、最終位置を決めかねているようで、
少し壁側に倒して角度を指示し、決定しました。
北向きのリビングにやわらかく光を反射させながら、
中庭のスケール感の中で、控えめに主張しています。
これから、この樹の成長が、どう空間に影響するのか見届けたいと思います。
とにかく、様々な要素と要望があり、新たにトライしたこともたくさんありましたが、
それぞれのバランスが調和した、とても上品な建築になりました。
そして、高校時代からの友人関係を壊すことなく、
さらに信頼関係を深める仕事になったのではないかと思います。(笑)
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