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2013.10.22

専松山 願教寺

高松で進めてきた、「専松山 願教寺」が完成しました。

浄土真宗のお寺です。

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2011年2月、高松青年会議所の先輩である砂川武彦さんから
お電話をいただき計画がスタートしました。

現在お寺のある場所から、今回の計画の場所に、お寺を建て替えて
移動するという計画。

砂川武彦さんのお父さんが檀家の総代さん。
若い住職とそのお母さんのために、これからのお寺として、
良い計画となるように、様々な論点から、最も腐心されている方でした。
そもそも大工さんで、建築には精通していますが、
住職や息子さんたちの若い世代で、計画をすすめるべきだということで、
武彦さんの後輩であるぼくに、依頼されたという経緯です。

計画は、「本堂」と「庫裡」。
「本堂」は、御本尊を祀る「内陣(ないじん)」と、
参拝者の礼拝の場所の「外陣(げじん)」の
ふたつの空間からなります。

「庫裡(くり)」は、僧侶の居住する場所、
一般的に言う「住宅」に該当します。
今回は、「本堂」と「庫裡」のふたつの空間を計画することに。

建設地は、細い道に建物が密集している場所で、
車の通行さえ容易ではない場所。

広い敷地のどの位置にどのように配置をするのが、
もっとも良いのかというスタディーを何案も検討しました。

そうした中で、「庫裡」のスペースは書院を兼ね、最小とし、
南側の旧街道からのアプローチを考慮した配置計画となりました。

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この場所は海岸線に近く、地盤が良くありません。
伝統的な瓦葺きだと重量が重くなり過ぎるため軽量化することと、
本堂の大きな空間を考慮し、鉄骨造で計画しました。

工事車輌の進入路は、隣接する駐車場の通路部分を利用させていただくことで、確保することを念頭に置いていました。

ところが。
建築工事の請負が谷口建設興業さんに決まり、営業の古川忠利さんと、
工事の準備のために、駐車場の通路部分の借用の手配や、利用者の方の
代替え駐車場の手配などを進め、地権者さんにお願いに行ったところ、
あっけなく、断られました。

なんでも、地権者さんの娘さんのお話では、お母様はご高齢で、
そういう相談は難しいと。
それから、条件等を古川さんともう一度練り直し、
また、隣に住む方が、地権者さんの息子さんで、ぼくの親友の勤める
大手ゼネコンの方だとわかり、希望を持って説明に上がりました。

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ところが、条件うんぬんではなく、お母様はご高齢な上に、
心労に敏感で、だから、そういう話を切り出すことも遠慮したい。
ということで、丁重に断られました。

そうなると、重機が入らないのは確定となり、
ようやく進入できる軽トラックを前提として再検討。
建物は木造で、かつ、軽量な部材を組み合わせる構造とし
監督の山本さんらと検討を重ね、ようやく着工と相成りました。

先にアップしました起工式、そして上棟式は、
長く困難な道程を経ているだけに、特別な感慨がありました。
http://yharch.cocolog-pikara.com/blog/2012/11/post-483a.html

http://yharch.cocolog-pikara.com/blog/2013/04/post-6254.html


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敷地は、とても入り組んだ場所です。
敷地の南側に、旧街道があります。
そこからの、とても狭い道を進むと、建物の一部とサインが
少しずつ近づいてくる。そんなアプローチです。

様々なアプローチを検討しましたが、
ポーチ→エントランス→廊下→外陣→内陣を、
同一の軸線上に構成することが望まれました。

そして、数年前の浸水の経験を踏まえて、床面を周辺地盤より1mに。

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宗教建築は、アプローチがとても重要です。
神聖な礼拝の空間へ至る、精神的高揚感を生み出す場面の展開こそが、崇高さを感じさせるのです。
ポーチの高さは、周辺の建物のスケールに合わせて、やや抑えています。
そして、ポーチからエントランスへの階段で、
わずかながらも心理的距離感を生んでいます。
エントランスは、廊下よりも天井を低くし、ここでも上方への動きを持たせ、実際の距離よりも長く感じさせることを目指しています。

ご高齢の方が多く利用されることを念頭に、
段差を安全に、そして効果的に活かすよう考えました。
エントランスの下足入れには、家具と一体となった手摺を設置。

そして、目の前にこの建物の統一された鴨居のラインがあり、
その上部には、お寺の「山号板」。
外陣は全て、障子で囲われ、大きな法要を想定して、
障子を外せば、周囲の廊下と一体になるように計画しました。

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内陣は、浄土真宗の「極楽浄土」を表す金箔張り。

西側には、寺務所と、お茶室として利用することを想定した、
六畳と八畳の、続き間ともなる書院。

これから作庭予定の西側のスペースに向かって、
サービス動線となる広縁。

そして、水回り。

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とても長い時間を掛けて、ようやく竣工に到りました。

これまでに要した時間は、まったくの無形の状態から、
多くの関係者の潜在意識の中にある、「あるべき願教寺の姿」を
共有するには、必要な時間であったのだと思います。


御本尊が越してくるのは、しばらく先になりそうですが、
良い祈りの空間を提供できたのであれば、幸いです。

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2013.10.08

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徳島市で進めてきた、住宅が完成しました。

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ASJ徳島スタジオの仕事です。

しかし、完成に至るまでには、平坦な道程ではありませんでした。

2010年から計画を始め、2011年の雪の日に、
地鎮祭を終えました。
http://yharch.cocolog-pikara.com/blog/2011/02/post-9130.html

ところが。

その地鎮祭の後、問題が起こりました。
通常、地鎮祭の後、近隣へ現場監督さんとご挨拶に伺います。
「工事が始まります。ご迷惑をおかけします。
 越してきた際にはよろしくお願いします。」ということで。

その場所は、工場が無くなった後、真ん中に道路をつくり、
そこだけで完結する8戸の住宅団地。

その一番奥が計画地でした。
他の7戸は既に生活をしています。

そして、計画では、住宅だけではなく、近くに住む、
お父さんの営む理髪店が併設されていました。
理髪店を引退後は、奥さんが犬のトリマーのお店として
使用する計画でした。

これが、問題になったのです。

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この住人が結託し、不特定多数の人が利用する店舗は認めない、
理髪店やトリミングの不潔なものを水路にも放流させないと。

建築基準法上は全く問題ありません。
また、土地売買の際の規約にも、店舗を営むことの禁止事項は
記載されていませんので、規約には一切抵触していません。

ですから、これは住民たちの単なる言いがかりで、法的には何ら問題はありませんでしたが、これから何十年と住もうとしている場所で、最初から揉め事を持ち込みたくないのは誰でも同じ。また、理髪店とトリミングの店は、営業が困難なこと必至。

随分と悩まれましたが、結局、この場所を諦めることとし、
一年後に、新たな土地を探すことから再スタートしました。

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そして、この一年の間に、これからの生活を十分に考えることとなり、
阿南市から、通勤や子供たちの通学のことを考慮して、
徳島市の中心部分の敷地を検討することになりました。

とはいえ、地価がずいぶんと違いますので、最小限の敷地。
その中で、今回の敷地に出会いました。

徳島県庁の目抜き通り沿いの一画。
L型の変形の敷地ですが、必要な諸室がインプットされているので、
一目見て、「これはピッタリだ!」とヒラメキました!(笑)

案の定、敷地にプランを描いてみると、ドンピシャ!
全く無駄のない、完璧な形状でした。

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1階には、トリミングのお店・住宅への玄関・将来的にご両親を呼べるように一室、そして、洗面脱衣とお風呂・トイレ・収納。

2階には、リビング・ダイニングと寝る・着替える・収納のスペース。


ただし、この場所で最も懸念されたのは、全面の国道の騒音でした。

2階のリビング南側には、バルコニーを設ける配置は
当初からありましたが、音を遮りながら光を取り入れるように、
半透明のガラスのスクリーンを設けることにしました。
このガラスのスクリーンは、プライバシーと日照を確保しながら、
騒音を遮り、そして生活の様子をわずかに伝えるものです。
そして、バルコニーの上部も、わずかに風が抜けるように。

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あとは、開閉の調節の自由度が高いルーバーサッシュを適宜。

クライアントのご主人は、高校の数学の先生で、かつ、演劇部の顧問。
細かな建築の見え方や、設計の細部にまで関心が及びました。
建築の専門家でも気づかないような部分に質問が及び、
ぼくも、喜んで応える、といったことがよくありました。(笑)

また、あれこれと「仕掛け」を考えることが好きで、
到底難しいと思っていた、階段からトリミングの店への階段も設置。
そして、1階の両親の部屋の様子を2階のリビングから
確認できるように、のぞき穴も設置。

寝室は、2段ベットのようなロフトとなり、上部は寝室。
下部は、当面は小さな子供たちの遊び場であり、収納のスペース。

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などなど、楽しい仕掛けがたくさんの住宅となりました。

建築に求められる機能は、そのスペースごとに全く異なります。
ただし、一見何の関係もないような諸要素が、
あるルールを見出した途端に、一挙に整理される。

それは、因数分解のように。

そして、そのルールは、細部にまで及ぶ。

クライアントは、そうした建築の成立の仕方に
強い関心があったのだと思います。

向田邦子のエッセイは、何の関係もないと思われる、
複数のストーリーが、最後に見事につながります。

そうした、演劇と数学の共通の魅力が、
実は、建築にも通じるものであることを、
改めて感じさせていただいたお仕事でした。

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2013.10.07

house kk

多度津町で進めてきた、住宅が完成しました。
 
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昨年6月、「設計を依頼したい」とのご連絡を頂き、
計画がスタートしました。

田園のどかな多度津町の住宅団地の一画。
数年前に、平屋の建物付きの土地を購入され、
その場所に建替える計画です。

最初の顔合わせは、事務所に来ていただきましたが、
ふたりのお嬢さんが小さいこともあり、
その後の打合せはご自宅に伺い行いました。
 
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ご夫婦ともに、「house kf」のご主人と知人で、
この住宅をとても気に入り、依頼を決めたとのこと。

要望は、最低限の必要諸室。
とにかく、ぼくの方から提案して欲しいとのこと。

田園地帯の広い区画の住宅団地。
平屋の住宅の並ぶ、ゆるやかなスケール感。

建物が建つことで、そのスケール感が浮かび上がるような、
「余白」を与える建ち方が良いと考えました。
 
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小さなお子さんがお留守番することが多くなりそうなので、
防犯上、外周面に大きな窓は設けず、
風を取入れるスリット状の窓を適宜配置。
2階に中庭を設け、それに面する吹抜けが階下に光を届ける。
中庭と小さな吹き抜けが、この住宅の各室に、
緩やかな一体感と程よい距離感を与えます。

最初の提案をとても気に入ってくださり、
後は、もう微調整。

8月には実施設計を終え、見積依頼。

11月には建築工事請負契約となりました。

それにしても、大きな中庭ではないので、
リビングが暗くなり過ぎてないのか、それが心配で、
空間がほぼ把握出来る状態になって、
フローリングの発注のギリギリのタイミングまで悩み、
ウォールナットとしました。
結果、落ち着いた佇まいとなり、光がより印象的になりました。
 
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玄関先の外構は、家に導く低い壁と、幾何学的なさらに低い壁。
実は、既存の浄化槽との取合いがうまくいかず、
苦肉の策から生まれましたが、面白いアプローチになりました。

温厚なご夫婦と、とても元気な子供たち。

家族の成長をやわらかく見守り包み込むような、
そんな鷹揚な住宅となることを願っています。

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