house hk
不思議な体験だった。
初めての打ち合わせの際、ご両親と住めるようにしたいこと、
必要な諸室などをつづったメモを一枚いただいた。
控えめに、申し訳なさそうに希望を仰る。
その後、敷地を訪れた。
吉野川沿いの静かで緑の豊かなところだった。
段状になった長く広い敷地に、あまり強く主張しない、
控えめな在り方がよいと思った。
周囲の自然を多様に感じさせる、中庭を点在させる平屋の案を提案した。
最初の提案で、決まることは無いと思っています。
だからこそ、初回の提案は、自分が考えうる最良の案を出します。
やや過激かなと思う部分があっても、それに対する反応を探るというか、
クライアントの「好み」を見出すことが、
その後の方向性をより明確にするからです。
模型と図面でひと通り説明した後、「いかがですか?」と尋ねると、
「期待していた通り、すごくいいです」。
その言葉に一番驚いたのが、同席していたASJ徳島スタジオの本田社長。
まさか、この奇妙な案を受け入れるとは思わなかったようだ。
もちろん、初回の案そのままで進んだわけではなく、
ご両親とも相談され、出された要望を踏まえ数回の打合せを重ね、
最終案に到ったが、コンセプトはしっかりと残り、
要望の生活空間に、よりフィットさせたかたちになったのではないかと思う。
過程、様々なこちらからの提案に対して、
「それで、結構です」と、黙して語らずではないが、
ほとんどの提案は受け入れていただいた。
あまりに謙虚な姿勢に本田社長が、
「気になること、ちょっとしたことでもかまいませんので
遠慮せずに仰ってください。」と。
「いえ、よく考えていただいてますから。」
有難いが、重い言葉。
謙虚なご夫婦だった。
実は、竣工してから3ヶ月が過ぎてからこの文章を書いている。
何とも印象的なご夫婦とのやりとりを表現する言葉を捜していた。
ぼくが、今回のご夫婦に感じていた、どこか懐かしい感覚は、
「奥床しさ」。
「奥床しさ」をもったご夫婦に相応しい、
「奥床しさ」をもった建築になっていればいいと思う。
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